百年診療所が現代の日常を照らす!長源医院-鹿港歴史影像館は、空間体験、和洋茶席、テーマ展示、そして古家リノベーションのノウハウ提供を通じて、古都・鹿港(ルーガン)に新たな芸術と文化の活力を吹き込んでいます。
鹿港の百年の物語を受け継ぐ古き医院
鹿港第一市場から中山路へ向かう途中、お菓子の香りが漂う玉珍斎の斜め向かいに、伝統的な漢式町家と3階建ての過渡期様式の洋館が融合した個性的な建物が目に入ります。温かみのある筋入り煉瓦の間に浮かび上がる「長源医院」の看板は今も行き交う人々を見守っていますが、騎楼(アーケード)下のガラス窓からは以前とは異なる光が漏れています。
清朝統治期に建てられたこの建物は、もとは四つの棟をもつ二階建ての細長い町家でした。その後、日本統治時代に市区改正計画が進められるなかで改築され、最初の第一棟が取り壊され、新たに三連の洋館が増築。こうして、時代をまたぐ美学が共存する有機的な構造が形づくられました。長源医院は、創設者である許読医師が鹿港に近代医学とモダンな生活様式をもたらした窓口であると同時に、息子の・許蒼澤氏にとっては、レンズを通して故郷を見つめ始めた原点でもあります。この建物の発展の歩みと同じく深い歴史的価値こそ、雄本老屋が調査段階で特に重視して掘り下げた側面でした。
修復と再活用の過程において、雄本老屋は可逆性のある工法を採用し、建物に刻まれた使用の痕跡を丁寧に残しました。さらに、引き算のデザインによって建物本来の姿と修復の成果を際立たせ、元の雰囲気を損なうことなく、現代の運営に必要な設備を巧みに取り入れています。居住の必要から生まれた細かく複雑な空間構成のため、チームは運営計画において機能の切り替えに苦労しました。しかしその一方で、この構造が訪れる人にとっては、歩みを進めるたびに景色が変わる探索の楽しみをもたらしています。



写真2/「長源医院-鹿港歴史影像館」中山路側の漢式町屋正面。(画像提供/銘映影像製作-張銘智氏撮影)
写真3/長源医院は鹿港地方の発展における多くの重要な瞬間を目撃し、時代を超えた美学を組み合わせた建築構造はその中で流れる歳月を反映。写真家・許蒼澤による歴史的な写真。左側には長源医院の旧姿。(画像提供/許蒼澤氏撮影、許正園氏提供)
幾重にも広がる、多層的な空間の物語
地域の診療所から文化空間へ。「長源医院-鹿港歴史影像館」への転身は、復古や全面的な刷新に固執するものではなく、この場所がもつ歴史の蓄積に根ざしながら、現代の暮らしと共鳴する多層的な文化体験を創り出す試みなのです。互いに寄り添う二棟の建物、あわせて三階建ての空間には、復刻診療室、インタラクティブな光のインスタレーション、テーマ展示、老屋医院、和洋茶席、そしてインスピレーション・スペースが設けられています。百年の歴史をもつ医院建築の中で、多層的で多様な空間の物語が展開されているのです。
1F|診察室の記憶を復元し、地元の味わいを再構築
長源医院-鹿港歴史影像館の「常設展示エリア」に足を踏み入れると、かつて許読医師が診療を行っていた診察室が丁寧に復元されています。展示されている医療器具、カルテ、薬棚はいずれも当時の実物で、日本統治時代の近代的な医療空間が、今まさに目の前によみがえります。
1階には屋外のテラス席も設けられ、百年の古家と鹿港の街並みが自然に対話を交わす空間となっています。訪れる人は木陰やアーケードの下でひと息つきながら、入居ブランド「小本愛玉」の看板メニューである、写真家・許蒼澤氏のNikon S2カメラを模した愛玉ゼリーなど、さまざまな風味の特製スイーツを味わうことができます。
サービスカウンター限定で販売されている「彫花菓(ちょうかか)」は、雄本老屋と鹿港の老舗菓子舗「鄭興珍餅舖」とのコラボレーションによる特製品です。洋館のファサードに施された洗い出し模様(テラゾー)のデザインをモチーフに、建築の美学を口の中でとろける甘やかな記憶として表現しています。





2F|写真フィルムの光と影に浸り、古家の脈絡を継ぐ
2階には地元の光彫刻デザインチーム「光満楼 LightFull Studio」を招き、かつての許家の住居空間を「光彫刻展示室」に仕立て、デジタルマルチメディア技術で許蒼澤写真家の作品を蘇らせ、昔の鹿港の街並みと庶民の生活の断片を表現しています。スマートセンサー装置を通して記念撮影を行い、百年の歴史をもつ医院との出会いの記憶を、あなただけのデジタルコレクションとして残す事もできます。
同じく2階に位置する「古家病院」では、古民家の健康診断や修復に関する専門的な相談サービスを提供しています。さらに、分野を超えた職人やチームとのマッチングを行い、より多くの古民家が持続的に再生・活用されることを目指しています。館内には長源医院のアクリル模型も展示されており、複雑な建築構造を精緻に凝縮したこの模型によって、修復工事の細部や工夫の数々を一目で理解することができます。
長源医院の再開発が始まって以来、多様なテーマの特別展示がほぼ途切れることなく続いています。過去の素晴らしい内容と新たな企画は、2階の「展示スペース」と「夢の国」で交互に展示されます。今後も鹿港の文脈、建築美学、家族の記憶、医療史、写真芸術などのテーマに焦点を当て続け、キュレーションを通じて歴史的空間により深い現代的役割を与えます。




「展示スペース」では現在、許家の音楽物語をテーマにした展覧会を開催中です。


「夢の国」は許読医師と妻の黄十一の居間で、過去の化粧台や貴妃椅子などの嫁入り道具が保存されており、現在は家族史を展示の主軸としています。
3F|和洋の雅韻を味わい、「不見天街(屋根で覆われた街路)」を懐かしむ
3階の「和洋茶席(ワヨウ・チャセキ)」では、建物に残る和室と洋室をそのまま活かしながら、現代の茶芸を取り入れています。さらに鹿港(ルーガン)の地元店舗と協力し、漢・和・洋の3つの味わいを楽しめる特製スイーツを提供しています。百年の老舗「鄭興珍餅舗(ヂェン・シンヂェン・ビンポー)」のピーナッツキャンディーと米粩(ミーラオ)、和菓子ブランド「米弎豆お菓子処(ミサト・オカシドコロ)」の大福、そして彰化県初の公益リノベーション・パートナーでもある「Daily Sweet Thing 恬事(デイリー・スウィート・シング・ティェンシー)」のフィナンシェとマドレーヌ——それぞれの味が時空を超えて出会い、文化が交差する体験を創り出しています。
さらに、インスピレーションあふれる読書空間の創造に取り組む「Boven 雑誌図書館」も長源医院に入居し、国内外の厳選された書籍や雑誌を訪問者に提供しています。人々はここでゆったりと本のページをめくり、歳月の流れの中で沈殿した繊細な質感を楽しむことができます。
後方のバルコニーに設けられた屋外席は、漢式町家の二番目の棟の屋根勾配にほど近く、赤瓦で葺かれた屋根は、かつての「不見天街」特有の空間感をそのままに留めています。そこには、許家の子どもたちがこの場所で遊んでいた、あたたかな記憶が今も静かに息づいています。曲がりくねる路地の上に位置するこの場所は、瓦屋根が前後の中庭を密やかに結び、先人たちの巧みな設計の知恵と共生の工夫を今に伝えています。それは鹿港にしかない立体的な歴史の物語であり、今ここに人々を迎え入れ、日常の鼓動を再びこの空間に呼び戻しているのです。




RF|洋館の屋上を散策し、古い町の風情を一望
長源医院の洋館屋上に上ると、かつて河港や連なる屋根並みを一望できた鹿港の高台に立つことになります。その広々とした眺望は、今もなお町の中心部を見渡し、往時の風景を静かに映し出しています。鹿港の人々が屋根の上で過ごす風習を受け継ぎ、かつて許家では、訪れる大切な客人たちとともにこの場所でよく記念写真を撮りました。そのおかげで、当時の姿を伝える貴重な歴史写真が数多く残されています。この屋外空間は修復後も素晴らしい眺望を保ち、元の煉瓦敷きの広場も復元され、映画上映やコンサートなどの文化芸術活動を開催するための理想的な場所となっています。


地域を一世紀見守ってきた長源医院は、「長源医院-鹿港歴史影像館」という新たな姿で鹿港の記憶を蘇らせようとしています。古い町並みの肌理を丁寧に読み解き、「古家病院」という独自のコンセプトを据えたことで、長源医院は単なる歴史展示の場にとどまらず、古家の価値を現代に体現する使命を担う存在となりました。鹿港の多様で奥深い文化的背景を、建物のすみずみや催しのひとつひとつ、そして展示品のすべてを通して、鮮やかに世に伝えています。
長源医院-鹿港歴史影像館
プレオープン|2025年6月4日(水)~2025年6月5日(木)
正式オープン|2025年6月7日(土)
開館時間|10:00~17:30(月曜日休館、国定祝日は通常通り開館)
所在地|彰化県鹿港鎮中山路194号
Facebookページ|長源医院—鹿港歴史影像館
Instagram|@changyuan_1925