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「舞台がないことこそ、最高の舞台」――パフォーミングアーツが古建築の空間に息づくとき

2024 / 11 / 18

17世紀に「鏡枠舞台(プロセニアム・アーチ・ステージ)」が主流の劇場構造として確立して以来、アーティストたちは箱型の空間の中で常に表現の境界を探り続け、やがて現代においては、実験精神に満ちた多様な劇場形式を発展させてきました。パフォーミングアーツの核心は、パフォーマー、観客、空間、の三者にあります。そのため、舞台は必ずしも荘厳で巨大な劇場建築物に限定されません。田んぼや古民家、さらには歳月を重ねた窓一つでさえも、完璧な公演の場となり得るのです。

台中国家歌劇院ブランドイノベーション部マネージャー、桃園県政府文化局舞台監督、台湾好基金会シニアプランナーなどを歴任した呉麗珠先生は、伝統的な劇場を離れる過程で、パフォーミングアーツが様々な空間で発揮できる独特の魅力を徐々に発見していきました。彼女は地方創生の理念を劇場活動に融合させ、「大渓源古本舗」の芸文イベントを企画することで、長年温めてきたアイデアを実践に移しました。今回、雄本老屋の招きで、呉麗珠(ウー・リーチュウ)教授が鹿港「長源医院」を訪れ、「舞台がないことこそ、最高の舞台 ― 古い空間でこう演じる」をテーマに講演を行いました。劇場の現場で20年間にわたり得てきた気づきや感動を語りつつ、古い空間と現代アートをどう結びつけ、地域の記憶を呼び覚ましながら、人々と古建築との情感的なつながりを取り戻すことができるのか――その可能性について深く探りました。

劇場から地方へ

広大な田んぼの中央に舞台を設け、雲霧や山々を自然の背景とし、黄金色の稲穂の波が境界線を描く—台東県池上郷で長年開催されている「池上秋収稲穂芸術祭」は、伝統的な劇場の枠組みを打ち破り、パフォーミングアーツを収穫の季節の稲田へと引き出しました。この独特な舞台形式は、企画チームの創意工夫があってこそ実現したものです。台湾好基金会で勤務していた時期、呉麗珠先生は芸術祭の実施業務に参加し、舞台デザインと自然要素を融合させる難しさと魅力を目の当たりにしました。

呉麗珠先生はこう語ります。稲の収穫期に公演を行うためには、ただ会場を借りるだけでなく、農家の人々との合意形成が不可欠でした。予定した上演エリアでは事前に種をまき、芸術祭の開催前に収穫を終えなければならなかったのです。そして、劇場の天幕のように広がる果てしない稲田の風景は、チームが地域住民と何度も話し合い、協力を得て初めて実現したものでした。二日間にわたる上演のあいだ、その壮大なビジュアルを保つための努力は並大抵のものではなく、当然ながら、農作業に影響を及ぼすこの企画が、当初は地元の理解を得るのが容易ではなかったといいます。

住民に受け入れられなかった当初の段階から、いまや地域の誇りと結束を象徴する催しへ。池上〈秋收稲穂芸術祭〉の転機は2009年に訪れました。一枚のピアノ演奏の写真が、国際誌『TIME(タイム)』に掲載されたのです。それは、人々にとって日常の風景である稲田と芸術表現とをひとつに結びつけ、どこか懐かしくも新鮮な、美しく独特な光景を世界に発信しました。それはまさに講師の考えに呼応していました。「舞台上の公演は芸術家が長年鍛錬してきた成果の発表ですが、舞台の下では、芸術公演が単に観客のためだけに存在するのではなく、地域のため、その空間のため、そしてすべての人に参加してもらうために素晴らしいものにしたいと願っています」。

内から外へと再生する源古本舗

大渓・和平老街に佇む「源古本舗」は、古(グー)家が80年にわたり暮らしてきた漢式の邸宅です。市街改正の時期に新設された洋風の牌楼(アーチ門)が、奥へと深く伸びる中庭へとつながり、かつて菓子づくりの炭火で燻された土壁や、古びながらも気品を保つ赤煉瓦のアーチが、長い歳月の流れとともに自然に刻まれた美しさを静かに物語っています。台湾好基金会の「北区国際光点」プロジェクトで大渓に滞在していた呉麗珠先生は、「源古本舗」との縁を得ました。長年家を守ってきた古家の「この古宅を蘇らせたい」という強い願いを受け、第5代当主・古正君(グー・ジェンジュン)氏、古さんの母親の・廖玉昭(リャオ・ユーザオ)さん、そして「黄日香豆乾」4代目の黄瑞真(ホアン・ルイジェン/のちの「品香食塾」代表)、服飾デザイナーの呉岱紜(ウー・タイユン)氏らとチームを組み、文化イベントを軸とした運営企画を共に構想。内側から外側へと少しずつ息を吹き込み、芸術と生活を通して古い屋敷に新たな生命を与えようと試みました。

2019年の「幸福器味展」を皮切りに、呉麗珠先生は長年の劇場での経験を古い邸宅に投入し、「住宅」を芸文の場に変える方法を考えるだけでなく、空間に元々ある生活感を展示の主軸にすることも試みました。展示では、古正君が収集した各国の器や民芸品を中心に、家の中のテーブル、壁の隅、渡り廊下に自然に配置し、生活化された庶民の美学を表現しました。視覚的な美しさに加えて、これらの精巧な器は黄瑞真の料理の腕前と組み合わされ、観覧者は味覚を通して展示品と交流し、地元の食材の香りの中で人情の温かさを味わうことができました。

幸福器味展のオープニング記者会見では、大渓地域の多くの年配者が古正君の母親から招待を受けて古家の邸宅を訪れ、偶然にも地元住民が集まる機会となりました。源古本舗の運営資金は公共部門や博物館などの機関ほど潤沢ではなく、展示品も必ずしも珍しいものではありませんが、そこに秘められた価値はすでに展示自体を超え、地域のネットワークを繋ぐ拠点となっています。

古い空間がパフォーミングアーツと出会う

2020年に開催された「夏日映音展(サマー・オーディオビジュアル・フェス)」では、アナログレコードや古い映画の修復展示といった静的な要素に、音楽コンサートや人形芝居などの動的なパフォーマンスを巧みに融合させ、訪れる人々に多彩で豊かな芸術文化体験を提供しました。次女でソプラノ歌手の王郁馨(ワン・ユーシン)による澄んだ歌声が、広くはない古宅の空間に柔らかく響きわたり、封じられていた時の記憶と静かに共鳴しました。「海浜之歌(海辺のうた)」の一節が流れると、亡き古家の父が遺した席に初めて座った廖玉昭(リャオ・ユーザオ)氏の目には、思わず涙がにじみます。「鳳飛飛メドレー」や「月亮代表我的心(月は私の心を表す)」といった往年の名曲も演目の一部として披露され、その旋律が、集まった年長の観客たちの胸に、若き日の思い出をそっと呼び覚ましていきました。さらに、古宅の牌楼(アーチ門)正面には一時的にスクリーンが設置され、和平老街全体がまるで“野外映画館”へと姿を変えました。上映されたのは『安平港へ帰る』『お名前を教えてください』といった往年の台湾映画。山形の壁に刻まれた精緻な装飾や、亭仔脚(ピロティ)の石柱がスクリーンのフレームとなり、投影機と幕のあいだを行き交う人々の姿が前景を形づくり、街そのものが映画の一部となるような、独特の芸術的緊張感がそこに生まれました。

写真1/源古本舗「夏日影音展」において古民家内で開催されたメゾソプラノの王郁馨(右端)の独唱会。(画像出典/蕭明発撮影、源古本舗提供)
写真2/源古本舗「野外映画パーティー」が牌楼のファサードを映画のフレームに変えた。(画像出典/源古本舗提供)

同年の「知竹芸術週間」では竹編み芸術品が展示の主軸となり、青竹のイメージが古家の邸宅の空間全体に貫かれていました。源古本舗では、大渓を拠点に活動するアーティスト・黄哲夫(ホアン・ジェフ)氏を招き、一面の壁に竹の影を題材とした水墨画を描き上げてもらいました。さらに、山野で採取した野草や花々を空間にあしらい、季節の息づかいを添えています。加えて、気鋭の振付家・許庭瑋(シュ・ティンウェイ)氏が現地制作作品「未,使用的(まだ、使われていない)」を発表。三人編成のバンドによる伝統音楽のリメイク演奏に合わせ、竹材のしなやかさと軽やかさを、身体の動きで見事に表現しました。呉麗珠先生は、当時多くの観客が現代アートにまだ馴染みがなかったにもかかわらず、古家空間とパフォーミングアーツの相互作用の中で美を感じることができたと語っていました。

黄哲夫先生が「知竹芸術週間」のために竹影の水墨画を創作している。(画像出典/源古本舗提供)
源古本舗「知竹芸術週間」展覧会オープニング記者会見では、新鋭振付師の許庭瑋(左端)が招かれ、現地で創作された「未、使用の」が発表された。(画像出典/源古本舗提供)

2021年に開催された「家のファッション ― 布衣フォートナイト展」では、古家に長らく大切に保管されてきた衣装箱の蓋がついに開かれました。展示品には、廖玉昭(リャオ・ユーザオ)氏がおよそ60年前に自ら縫い上げた婚約ドレスやナイトウェア、さらに祖母の世代が100年前に身にまとっていた香雲紗(シャンユンサ/光沢のある伝統絹布)の大襟服など、貴重なアンティーク衣装の数々が並びました。そこから派生して行われたのが、「時代ミックス術 ― 不老職人の華やかランウェイ」イベントです。登場したのは、国宝級の木工職人・游禮海(ヨウ・リーハイ)氏、水墨画家・黄哲夫(ホアン・ジェフ)氏、舞踊教育家・卓月雲(ジュオ・ユエユン)氏、そして“不老仕立て屋”こと廖玉昭(リャオ・ユーザオ)氏ら、平均年齢80歳を超える熟練の匠たち。「おばあちゃんズボン」に日本の羽織を合わせたり、「おじいちゃんパンツ」に創作ヴィンテージを組み合わせたりと、世代と時代を越えた斬新なスタイルで、老屋の空間に生命力と華やぎを吹き込みました。さらに、キュレーターチームは「不貳偶劇」の人形遣いである郭建甫も招き、古家の邸宅の窓枠とランウェイを背景に、卓月雲女史の孫娘と協力して素晴らしい人形劇が演じられ、世代を超えた芸術融合の斬新な体験が提供されました。

「時代ミックス術-不老職人ファッションショー」イベント。(画像出典/源古本舗提供)
人形遣いの郭建甫が古民家の窓枠を舞台として公演。(画像出典/源古本舗提供)


長年にわたって丁寧に企画された数々のアートイベントは、「源古本舗」を大渓の重要な文化的ランドマークへと押し上げただけでなく、古建築の再生と活用における、ひとつの理想的なモデルケースを示しました。講座の終わりに、呉麗珠教授は今年の「祭り・日常」特別展の核心である「本来の場所に戻る」で締めくくり、古家での芸文イベントは、この空間を記憶し、ここで生活してきた人々を主な展示対象とし、歴史的景観や記憶と密接に関わる本質に立ち返るものであるべきだと語りました。

同じく古家空間である長源病院では、2023年の修復完成式典に呉麗珠先生が舞台顧問として招かれました。当時小規模な観客席に鮮やかな赤い椅子が選ばれたのは、めったに集まれない許家の家族が「帰宅」する際の喜びと団らんの雰囲気を作り出すためでした。古建築の再生が、もはや単なるハード面の修繕や再利用にとどまらず、「人」を中心に据えて、空間と地域住民との関わりを取り戻すことへと広がるとき――その建物は初めて、記憶や感情、そして物語を宿す“生きた器”となるのです。

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