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隣人が古家の日常へ:「継光工務所」が半開放空間で建築士の郷愁に応える

2024 / 12 / 04

再生後の古家は、遊休空間を活性化し、歴史的街区に活気を与え、文化的地を創出するだけでなく、日常生活の容器となり、100年来の都市の鼓動を自然に継承するものとなります。修復以来数々の賞を受賞している複合空間「継光工務所」は、呉建志、頼仁碩という2人の建築士の綿密な計画によって荒れた廃屋から想像力の担い手へと変貌を遂げ、開放的な「騎楼」設計を通じて、再び仕事、生活、近隣の温かい交流を生み出しています。

雄本チームは専門書の内容の準備のために継光工務所の建築士・呉建志を訪ね、建築士・頼仁碩が作る料理の香りが漂う1階スペースで、再生の過程やデザインコンセプトについての話を聞きました。台中の継光街の細い路地に隠れたこの元工場兼住宅の建物は、中区の多くの古家がそうであるように、時代に取り残されていました。しかし、二人のデザイナーとの出会いが転機となり、「郷愁」をテーマにした都市生活の新たな可能性の探求の場所になっています。

建築士・呉建志が取材で継光工務所の再生課程を共有する様子。

仕事と生活を近づける水平空間

建築士・呉建志(右端)が継光工務所の歴史的文脈について説明する様子。

1947年に建てられた「繼光工務所」は、もともと帆布工場として使用されていました。1970年代になると家内制の帆布加工場へと姿を変え、2階部分は所有者一家の住居に。さらに、繼光街に面した5階建ての連棟建物は販売店舗として機能しており、異なる用途をもつ空間がひとつの建物内で連なり、当時の小規模企業の典型的な形態を今に伝えています。都市の発展の中心が移るにつれ、中区の商業活動は次第に衰退し、この工場も所有者が移転し、使用されなくなりました。無人となり、手入れされていなかったこの古建築には、瓦の破損や雨漏りなどの問題が生じ、ついには屋根に大きな穴があき、2階に草木が生い茂る荒れ果てた姿になりました。

2016年、中区再生基地の蘇睿弼(スー・ルイビー)先生の紹介で現地を訪れた建築家の呉建志氏と賴仁碩(ライ・レンシュオ)氏が目にしたのは、まさに崩れ落ちる寸前の老朽化した建物の姿でした。ちょうど新しい事務所を探していた二人の建築家は、ほとんど迷うことなくこの古い建物を借りることを決め、自らの空間デザインの専門性を活かして、その場所に新たな命を吹き込むことにしました。建築士・呉建志によると、以前借りていた複数階建ての建物は平面空間が狭すぎて同僚同士が互いに気を配ることが難しかったそうです。対照的に、ここは荒れてはいたものの、地上階の広々とした正方形のレイアウトが理想に近かったのです。

「これは伝統的なオフィス空間に対する再考です」呉建志(ウー・ジェンジー)建築家は、「同じ大きな屋根の下で働くことで、情報交換やアイデアの刺激がより活発になる」と語ります。この考え方は、かつてのこの家が体現していた「リビングがそのまま工場」という家庭内手工業のあり方とも重なります。スタッフは子どもを連れて出勤することもでき、子どもたちは2階建ての広い空間を自由に走り回り、笑い声を響かせる——そんな風に、仕事と生活の境界が自然に溶け合っていったのです。

継光工務所の1階空間は建物前の細い路地や駐車場につながっており、光とそよ風が自然に流れています。

郷愁の処方箋

2人の建築士と同僚たちは約1年の時間をかけて、継光工務所の系統的な改修を行いました。大規模な構造補強や水道・電気の交換だけでなく、テラゾー仕上げの床をすべて撤去して再施工し、破損していた木造の瓦屋根も一新しました。4、5件の建築士事務所が共有するオフィス空間として、2階は従来の机と椅子だけがある空間ではなく、不規則に連続する弧状の机で個人の作業エリアを連結し、境なく話し合える雰囲気を作り上げました。また、建物の中央に新設した1つの木製階段によって、同僚たちが2階へ上がって仕事をしたり、1階へ降りて食事をしたりする日常の中で、互いに気遣う友好的な関係を築けるようにしました。

細部にも、古家の歴史に対する建築士たちの敬意を見出すことができます。例えば、屋根に意図的に設置された2つの天窓と室内に植えられた小さな木は、建物が荒れていた過去を記念しています。古いアイアンワークは再研磨して塗装され、損傷部分も複製され、往年の優雅さを取り戻しています。木製の窓枠も保存・修復され、空間の質感が細かいところまで継承されているのです。

継光工務所のオフィス空間の一景。(画像出典/JNarcts呉建志頼人碩共同建築士事務所ファンページ)
継光工務所の2階には伝統的な窓飾りの工芸が保存されている。
修繕工事後に建物の中央に新設された木製階段は、上り下りする人々がお互いを見ることができ、交流と思いやりを生み出している。

北港と宜蘭出身の2人の建築士は、子供時代の情景や現代的な環境への思いから、継光工務所の1階を開放的にすることを選び、閉鎖的だった室内を騎楼のような半開放的空間に変えました。現代のコンクリートジャングルの中でも農村のような人と人、建築と路地の近い関係性の雰囲気を再現しようとしたのです。修繕・運営から8年が経過した現在、継光工務所1階の公共スペースは多機能性が備わり、展示会、講座、会議、ワークショップなどのイベントが開催されるようになりました。反対側のオープンキッチンも人々によく貸し出されています。全く接点のなかった人々がこの場所で出会い、交流することで、台湾の伝統的な生活の温かな雰囲気が継承されています。床から天井まで常時開放された扉や窓により、室内で開催されるイベントは屋外にまで広がり、路地を歩く人々も「騎楼」に入ることができ、建築物との交流が自然に生まれています。

「設計者ができることは、自分が心から好きになれる空間を見つけ、そこに自分が考える“良い”と思うあり方を取り入れること。そうすることで、人々が空間の使い方について多様な想像をめぐらせるきっかけを生み出せるのです」呉建志の言葉どおり、「繼光工務所(ジーグアン・スタジオ)」の再生は、単なるハードの修繕やリノベーションにとどまるものではありませんでした。生活そのものの本質を空間に注ぎ込み、古い家を商業経営の枠に閉じ込めることなく、自然に街の肌理(きめ)へと溶け込ませる——それによって現代都市の中に、人と人との温もりを感じられる心の拠り所を生み出したのです。

「継光工務所」の物語の全てや他の数多くの古家再生事例は、雄本チームが来年出版予定の専門書に収録される予定です。どうぞご期待ください!

中区の路地に佇む継光工務所。(画像出典/台中市政府文化局の許可を得て使用)

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