今回のセッションは「温かみのある良い家と良い物語、古家の代表的な熟成事例マップ大公開」をテーマに、雄本チームの共同著者・鐘佳陵が講演者を務め、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)の専門委員・李兆翔が対談に参加しました。建走共創整合の責任者兼本書の編集顧問である呉宜晏の司会のもと、古家がどのように独立した建築物から、近隣の感情をつなぎ、街区の再生を促す記憶の拠点へと広がっていくかを探りました。



写真1/『老屋熟成』高雄会場新書発表会イベントでの集合写真。(画像出典/合羽影像製作-張家瑋撮影)
写真2/建走共創整合の責任者であり本書編集顧問である呉宜晏が発表会の司会を担当。(画像出典/合羽影像製作-張家瑋撮影)
写真3/雄本チームの共同著者・鐘佳陵と国際記念物遺跡会議(ICOMOS)専門委員の李兆翔(左)が、今回の発表会のテーマについて対談を展開。(画像出典/合羽影像製作-張家瑋撮影)
都市と対話する4つの言語
台中会場では古家の商業的可能性に焦点が当てられたのに対し、講演者の鐘佳陵は視点をより柔らかい「人と古家の物語」へと映しました。高雄の地元事例とチームの実践経験を厳選して紹介したうえで、次のような点を読者と共に考えました。かつて港と市が分離していた高雄市は、どのように一般市民の生活を海辺の古い倉庫に引き入れたのでしょうか?雑草が生い茂った技術者寮は、大学の介入によってどのように技術伝承と職人育成の拠点になったのでしょうか?数多くの古いアパートは、若者の住まいの場となり得るでしょうか?長い修復過程において、古家の物語はどうしたら現代の生活に関わり続けられるでしょうか?

官民協力によって古い倉庫を蘇らせる:棧貳庫 KW2
高雄の「棧貳庫 KW2」は港区の輝かしい過去を語ってきました。しかし、コンテナ化に伴い徐々に衰退していき、戒厳令時代の港湾規制によって、海岸と一般市民の生活との距離はさらに遠のきました。2017年、「高雄港区土地開発股份有限公司」が企業的な手法で倉庫の活性化・再生を引き継ぎます。大胆な改築という考え方から脱却し、トラスの屋根構造と古びた壁面を残しただけでなく、精緻な出店誘致によって多くの地元ブランド(例えば「山津塢」チームがここで大漁旗文化の復興・推進に取り組んでいる)を集めました。また、雄本チームとMuji Renovationが共同で2階の宿泊スペースを作り、静まり返っていた古い倉庫を港区の生活のショーウィンドウへと変貌させました。
古家再生は修復が終われば完了するものではなく、運営過程においても空間と人との相互作用を継続的に促す必要があります。例えば、棧貳庫の開館5周年特別展では、雄本チームがキュレーターの視点で各所の歴史的深みを浮き彫りにしました。倉庫前方の屋根トラスの「消えた24メートル」は、道路拡張時に取り壊された部分を示しており、見えない都市開発の痕跡を明確に可視化しています。「時の回廊」はレンガ壁に港区の重要な出来事を展示し、壁面の質感と呼応しながら、急ぎ足で通り過ぎる旅行者に足を止めてもらい、倉庫群の歴史を一望できるようにしています。
物理的空間における新旧の共存から、歴史的文脈の翻訳・展示に至るまで、棧貳庫 KW2は都市の文脈を継承しながら、無形の地域文化を五感で体験できるようにしています。商業、文化、宿泊、交通機能がここで交わるとき、都市の日常もこの海岸地域に自然と流れ込んでくるのです。


型破りなやり方で産業遺産を活性化する:旗津技工舎
棧貳庫 KW2と海を隔てた港の中洲にある「旗津技工舎」は、ボトムアップという型破りなやり方で活性化に全く異なる道筋を示しています。ここはかつて造船所の技術工の住まいであり、下蚵仔寮の人々や大陳島民など多様な民族グループが集住していましたが、国軍の精鋭化計画によって人々は去り、建物は空になり、取り壊しの危機に瀕していました。縁あって中山大学社会学部が介入するまで、この荒廃した建築群が新たな夜明けを迎えることはありませんでした。
中山大学社会学部は宿舎の修復を急がず、まずUSRプロジェクトを触媒として、文化史研究、フィールドワーク、技術伝承などのソフト面から着手しました。その後「技工前進隊」を立ち上げ、学際的な職人や各種小規模プロジェクトの資源を統合し、集落空間を徐々に修復していきました。また、年に一度の祭りを通じて、この場所が再び人々の目に触れるようにしました。
この再生プロジェクトの課題は、元々の住民の移住や産業の変遷による記憶の断層を修復し、近隣住民との希薄になった感情的つながりを取り戻すことにありました。現在、技工舎は介護拠点、地元の飲食文化の発信、伝統工芸の継承、独立系本屋など多様な機能を備えるようになり、現代のコミュニティ生活を再び引き込んでいます。空間自体も歴史的文脈を繋ぎ、地域のアイデンティティを育む有機的な媒体となっています。
老朽アパートのソーシャルイノベーションへの道:高雄小本宿舎
古家再生のスペクトルは、歴史的価値の高い文化資産建築物だけでなく、都市の日常的な住居にまで広がっています。住宅価格が高騰する今日、若い世代は住宅問題に直面しています。同時に、都市には管理の行き届かない老朽アパートが多数存在し、次第に遊休空間と化しています。「高雄小本宿舎」はこのような背景のもと、ソーシャルイノベーションの解決策として誕生しました。
小本生活建設は市場のニーズに着目し、設計者自身の過去の賃貸経験を参考に、老朽アパートの再生計画を作成しました。ペットの飼い主や単身の若者など、これまでの賃貸市場で見過ごされがちだった層をターゲットに、「小本宿舎」や「猫の家」などのシリーズ商品を展開し、設計・施工・物件管理を一元化し、建材の在庫や中古家具を活用して、古くて魅力に欠けていた物件をコンセプト賃貸住宅へと体系的に変えていきました。さらに、チームが提案する「先に賃貸、後に購入」モデルにより、賃貸物件を短期的な仮の住まいだけでなく、長期的な住まいにもならせています。
「小本宿舎」と「猫の家」シリーズは、現在すでに高雄の各地に十数カ所の拠点を展開しています。その核心は、人への配慮を具体的な空間実践に落とし込むことにあります。ペットの習性を考慮した細部(室内のキャットステップの設置や、バルコニーの見えない面格子など)から、若者の定住を支援する長期的な計画に至るまで、古家が現代都市で発揮できる新たな価値が示されています。


空間と記憶を温める:長源医院-鹿港歴史影像館
講演者は視線を高雄から鹿港に戻し、「長源医院-鹿港歴史影像館」を通じて「古家の物語はどうしたら現代の生活に関わり続けられるか」という最初の問いに答えました。雄本チームは、許読医師が残した地域医療の記憶と、写真家・許蒼澤が残した映像作品を中心に、キュレーションされた物語とデジタル技術の応用を通じて、訪問者が直接体験できる空間体験に変換しました——写真家・許蒼澤と施秀香女史が暮らした寝室には、プロジェクションマッピング技術によって写真家が残した時代の光と影が映し出されています。地域住民の記憶の中の診察室では、医療器具や薬棚の原物展示を通じて、かつて許読医師が診察を行っていた光景が再現されています。
長源医院の建物全体の修復が完了する前から、一連の「保温計画」によって古家を鹿港の日常に再び位置づける取り組みが行われていました。現在、古家は地方文化館として、地元の若手クリエイターブランドとの連携(例えば瘦子珈琲とのコラボによるポップアップイベント)や、文化史の専門家とのコラボによる街区フィールドスタディの開催、さらには台湾デザイン展への参加や写真がテーマのイベント企画などを通じて、その影響力を外部へと拡散し続けています。元々家族の歴史を宿していた個人住宅は、徐々に文化的公共財へと変化し、街区との対話を通して現代の記憶を蓄積し続けています。
記憶のアンカーポイントから、都市再生の想像へ
事例共有後の対談で、李兆翔先生は長年国際文化遺産に注目してきた視点から、『老屋熟成』の特殊性を指摘しました——この本は古家だけでなく、人々が都市や空間を捉える姿勢にも言及しており、まさにそこに生活する人々が古家の熟成に必要なエネルギーと深みを与えるということを伝えているのです。こうした観点は一連の質問を引き出しました。本書に描かれる長く複雑な熟成過程の中で、実践者たちはどのような「魔法の瞬間」を経験し、行動へ踏み出す決心をしたのでしょうか?古家の家主以外の幅広い読者に対して、チームはどのようなインスピレーションを与えたいと願っているのでしょうか?
これらの問いに対し、講演者の鐘佳陵氏は、物語の根源は人にあると答えました。家主に強い継承の想いがある時こそ、再生の原動力は本当の意味で動き出します。そして修復者と運営者の役割は、その想いを専門性を通じて持続可能なモデルへと変換することにあります。では、『老屋熟成』が読者にもたらすものはなんでしょうか。彼女は、「視点転換」の可能性であると考えています。古家であれ新しい家であれ、それらをライフサイクルを持つ有機体として捉え、10年後、20年後の姿を想像し、その中で自分自身がどのように生活するかを考え、人と空間のより長期的な関係を構築するよう読者に促しているのです。




写真1、2/『老屋熟成』新刊発表会高雄会場での対談。(画像出典/合羽影像制作-張家瑋撮影)
写真3/雄本チームの蕭定雄協理が本書の核心を説明。(画像出典/合羽影像製作-張家瑋撮影)
写真4/雄本チームの黄建森副総経理が会場に駆けつけて応援。(画像出典/合羽影像製作-張家瑋撮影)
雄本チームの蕭定雄協理は補足として、本書は島嶼各地にある古家の物語の今を切り取った断片に過ぎず、チームはすでにその先の未来を見据えており、異なる国々の都市・農村問題との対話を目指していると述べました。同時に、公営事業とも積極的に協力し、集合的記憶を担う文化遺産に新しい命を吹き込み、台湾独自の文化的アイデンティティと帰属意識を確立していくとも語りました。古家再生は商業的な運営に限定されません。より重要なのは、古家によって居住の公平性などの社会問題に応え、民間のチームが社会の進歩を推進するための優しい力を提供することです。






写真2、3/会場での読者からの質問。(画像出典/合羽影像製作-張家瑋撮影)
写真4/『老屋熟成』新刊発表会での高雄会場の様子。(画像出典/合羽影像制作-張家瑋撮影)
写真5/『老屋熟成』新刊発表会高雄会場での書籍展示。(画像出典/合羽影像制作-張家瑋撮影)
写真6/雄本老屋チームの皆様の新刊発表会へのご参加に感謝。(画像出典/合羽影像製作-張家瑋撮影)
『老屋熟成』購入情報
❏ オンラインチャネル|博客来/誠品/読冊/金石堂
❏ 書籍定価|NT$ 660
新書発表シリーズイベント

❏ 10/4 ꜱᴀᴛ. 台中会場|私も古家を経営できる?古家の商業的潜在力と経営の道
❏ 10/18 ꜱᴀᴛ. 高雄会場|温かみのある良い家と物語、古家の代表的な成熟事例マップ大公開
❏ 11/1 ꜱᴀᴛ. 台北会場|活性化から修復へ、「老屋再生」ガイドの構築