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日本統治時代の打狗(高雄)築港計画の推進により、かつての海は埋め立てられて新しい土地となり、一面に広がっていた塩湖や沼地も市街地整備によって整然とした街区になりました。「哈瑪星」と「塩埕」の2つの港によって発展した新興市街には埠頭、鉄道、会社、銀行と商店が集まり、空前の繁栄を迎えました。商港の背後に位置する塩埕(エンチン)地区は、1920年代には劇場、料亭、カフェ、百貨店が立ち並び、あらゆる娯楽や社交が集まる華やかなエンターテインメントの街として栄えていました。この繁栄は戦後も続きましたが、1970年代に高雄の政治経済の中心が東へ移動するにつれて、次第に衰退していきました。

いまや塩埕は、かつてのように人波が絶えない「盛り場(繁華な商業・娯楽の中心地)」ではなくなりましたが、その街並みに残る古い家々や路地には、いまだ黄金期の面影が息づいています。少し手をかけて修復・整備を行えば、街の精神は再び蘇る。その理念のもと、今年、雄本老屋は協力会社の合本営造とともに、高雄市文化局が推進する「古い町家の再生プロジェクト」に参加し、塩埕および周辺地域にある築50年以上の老屋22棟のファサード改修工事を手がけました。建物のファサードから本来ない建材や増築構造を取り除き、電気や水道の配管、エアコンの室外機、電気・水道メーターなどの現代設備を配置し直し、古家の耐候性能を強化しつつ、照明計画によってファサードの美しさを際立たせることに重点を置きました。目指したのは、空間の物語の継承と再現を通して新旧市街地の変遷における港町の発展の歴史的文脈を描き出すことです。

1970年代初頭、人々で賑わう塩埕の街並み。(画像出典/写真家・鐘清溪、1973年撮影)

外から内へと向かう古家の再生

築60年の瀬南街の古家。「老街・古家再生運動」において最初に完成した場所。(画像出典/高雄市政府文化局、ARZ FILMS 撮影)

「老街・古家再生運動」の前期では、高雄大学の陳啓仁学長率いるチームが多くの家主と接触し、最終的に瀬南街の古家、新楽街二連棟、中山一路八連棟、国際商場(旧高雄銀座)などの歴史建築をモデルケースに選びました。これらの空間は住居や店舗、または空き家になっており、塩埕地区の過去の栄華を反映してはいるものの、時の経過で輝きを失っていました。また、伝統工法や建材の入手などの問題もあり、修繕や維持管理が困難でした。今回のプロジェクトは、外観の修復から着手し、旧市街地の忘れられた一角に光を当てるものでした。

この「都市設計」の視点で展開する古家再生活動には、雄本老屋が2023年に台北市で実施した「バルコニー整備実験プロジェクト」との類似点があり、いずれも街区への小規模な介入や既存の建物外観の微調整を通じて、住民や近隣の人々に古家の本質的な良さを再認識してもらうことを目指しています。家主の日常生活への影響を最小限にするため、修繕チームは限られた時間内にファサード改善工事を終える必要がありましたが、彫刻のディテールや埃の除去にも手を抜くことなく、建物本来の材質の質感や装飾的要素の復元に努めました。

最初に完成した「瀬南街の古家」。この家には家主である李さんの大切な思い出が沢山詰まっており、夫婦の日常生活を見守ってくれた住まいです。60年の歳月の中で建物が老朽化し、壁面のモザイクタイルの欠損や、鉄製装飾欄干の塗装剥がれなどの様々な症状が現れていました。精巧な木製格子窓も機能性を考慮して現代的なアルミ窓に交換されていました。工事期間中、チームメンバーは何度も現場を訪れ、外壁の清掃、修復、防水処理と並行して洗浄後の壁面や欄干などのサイズや色番を慎重に照合し、最適なタイルや塗料を選びました。また、元々の木製窓の分割形式に従い、ダークブラウンのアルミ製気密窓をオーダーメイドしました。

修繕後の瀬南街の古家は、温かみのある色調のタイルと空色の鉄製装飾欄干の鮮やかなコントラストが目を引き、周囲の建築物と調和しつつも街区で一際目を引く印象的な建物になりました。20年前にこの地に店を構えた南北貨物貿易会社はなくなり、当時瀬南街に集まっていた家族のメンバーも各々の道を歩んでいますが、埃を払い落とした古家は過去の記憶を再び鮮明にし、地元の活気溢れる商業の歴史を伝えています。

チームは頻繁にカタログと色見本を現場に持参し、古家に最も適した装飾材料を比較検討した。
鉄製装飾欄干の吊り下げ作業中、修繕チームが鉄材部品の補強塗装を行っている様子。(画像出典/高雄市政府文化局、ARZ FILMS 撮影)

同じくかつて店舗として使われていた「新樂街二連棟」は、高雄で長年親しまれてきた老舗鴨肉店の発祥の家です。後継の家族が次第にこの地を離れてからは、倉庫や飲食店の下ごしらえスペースとして利用されてきました。やがて、建物の前に設けられた看板フレームやビニール製のひさしが、本来の上品な佇まいを覆い隠し、騎楼のモルタル仕上げの柱や梁も、幾重にも塗り重ねられたペンキの下に埋もれてしまっていたのです。チームはまず、ファサードに後から追加された増築部分を撤去し、既存の鉄製窓枠を耐候性のある木製窓へと交換しました。また、一方の窓には当時の装飾格子(窓花)の職人技を丁寧に残しています。さらに、もとのモルタル洗い出し(抿石子)の質感を参考に、塗料を削り落としたうえで、色味や粒の大きさが近い石材と調合塗料を選定し、線形や曲面のプロポーションに合わせて騎楼空間を丹念に修復しました。

丁寧に洗浄・修復された赤レンガの壁面は、夜間にウォールウォッシャーライトが照射されると、幾つかの損傷が突然現れます。家主の呉さんが家族から聞いた記憶では、これらの凹みの痕跡は恐らく第二次世界大戦中の米軍の爆撃による弾痕であるとのことでした。そのため、修繕チームは平坦ではない壁面を慎重に保存し、この土地が経験した激動の歴史を建築空間に記録することにしました。

修繕後の木製の窓格子は、その中に収まる街区の風景に時代の変遷の模様を添えている。写真は、小本チーム設計二部のシニアマネージャー郭以諾(左端)、古家計画部の専門員劉亮妤らチームメンバーが竣工検査を行っている様子。

街区の復元、華やかな賑わいの再現

修繕前の中山一路八連棟は、多様なファサードスタイルを持っていた。(画像出典/高雄市政府文化局、ARZ FILMS 撮影)

高雄駅の前方に位置する「中山一路八連棟」は、南北から訪れる旅行者の目を引き、この都市に対する人々の第一印象を形作っています。今年の「老街・古家再生運動」に参加したこの、7棟のアパートの中には、住宅、バイクレンタル店、美容サロン、使われていない空き家があり、半世紀を超えた建築物のファサードは各々が独特の表情を見せていました。チームは古い看板や鉄材部品を撤去し、配線を整えた後、文化資産の外壁洗浄に精通したチームを招き、剥離剤を使用してファサードの装飾彫刻を復元しました。現代の使用ニーズに応えるため、修繕工事では新しい看板の設置やエアコンの交換も行い、室外機を軒下に移動させ、亜鉛メッキのエキスパンドメタルを使用して全体の視覚的な美しさを維持しました。

老街・古家再生運動は、この古い連棟アパートの往年の整ったファサードを取り戻すとともに、個々の住人が長年にわたって蓄積してきた特色も保存しました。

特筆すべきは、チームが古いアパート内の美容サロンの顧客の多くが外国人労働者であることを考慮し、看板の交換過程で家主の合意を得て、顧客が普段使う言語で新たにデザインした点です。世代を超えた生活の軌跡が融合する八連棟の建物には、地域発展の流れが具現化されています。ファサードの改善後も、多様性を受け入れ、新旧共存する港町の精神を映し出し続けることでしょう。

設計二部のスタッフ、余品均が玉砂利洗い出し仕上げの壁面に合わせて調合塗料を作成している様子。
老街・古家再生運動中、中山一路八連棟にチームが新たにデザインした看板が掲げらました。

連棟式の街並みやアパート型の古家に加えて、1936年に日本の銀座商店街をモデルに建設された「高雄銀座」も、今回のプロジェクトにおける改善事例の一つです。高雄初の大型百貨街であった高雄銀座は、以前は輸入品の集散地であり、バーやカフェなどのモダンな娯楽施設が集まっていました。建物の構造は第二次世界大戦の空襲で深刻な被害を受けましたが、1950年代に朝鮮戦争が勃発し、米軍が高雄港に駐留したことを背景に再び商店が集まり、「国際商場」という名前で繁栄を取り戻しました。また1963年にはアーケード街のブームを受けて拡張工事も行われました。しかし、都市発展の中心が移るにつれて国際商場もモダンな輝きを失い、中央の吹き抜けと両側の商業スペースをつなぐ通路だけがこの地の過去を物語っていました。

日本統治時代に絵葉書(ポストカード)の形で保存された高雄銀座の歴史的画像。

塩埕区の喧騒や静寂と共に歩んできた国際商場。(画像出典/高雄市政府文化局、ARZ FILMS撮影)

かつての繁華から静寂へと移りゆく多くの旧市街の建物と同様に、「高雄銀座」もまた、複雑な所有権や長期の空き家化といった問題を抱えていました。そこでチームは、ささやかではありながらも効果的な「照明計画」によって空間へ介入することを選びました。実際に入口や通路を明るく照らすことで、人々の記憶の中に眠っていたこの商業街へのまなざしを、再び呼び覚まそうとしたのです。チームは投光器の設置に着手しつつ、天井に吊るされた古い蛍光灯の台座を残していきました。これは、人々が黄色い光に誘われて見上げた瞬間に、過去と現在の対比、新旧の融合が生み出すインパクトを感じさせるためです。今回の照明計画のために特別にデザインした照明カバーは、新しい照明器具が建築物のファサードに影響を与えるのを効果的に防ぎ、元の空間の雰囲気を最大限に保っています。

「老街・古家再生運動」は現在も継続中です。外から内へと微調整を行いながら、少しずつ塩埕地区の視覚的印象を再構築しています。本プロジェクトの企画・設計、そして施工を担ったチームとしても、私たちは一連の具体的な取り組みを通じて、これまで大切にしてきた「老建築の再生」という理念を実践したいと願っています。都市の街並みが多様な建築様式を包み込み、それぞれの時代が持つ美意識や風格を映し出すことができれば、地域の発展の軌跡は自然と現代の暮らしの中に溶け込み、文化の土壌を豊かに育む肥沃な大地となっていくはずです。

老街・古家再生運動において高雄銀座の通路空間が照らされました。

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